福武 總一郎|ベネッセ2代目社長・「経済は文化の僕」を掲げ直島をアートの島にした経営者

人物紹介ページ「福武 總一郎」(/fukutake-soichiro/)のアイキャッチ画像。瀬戸内海の島々を眺める後ろ姿を水彩で描いたイラスト。
教育者

福武 總一郎ふくたけ そういちろう

1945年生まれ 岡山県出身

ベネッセグループ 名誉顧問/公益財団法人福武財団 名誉理事長

父が岡山で始めた通信教育「進研ゼミ」を全国規模の教育事業に育て、社名を「よく生きる」を意味する造語「ベネッセ」に改めた2代目経営者。同時に、瀬戸内海の直島・豊島・犬島で40年近くアートによる地域再生を指揮し、「経済は文化の僕」という言葉とともに、瀬戸内国際芸術祭を総合プロデューサーとして率いてきた人物でもある。

編集メモ

福武 總一郎は、教育の会社の経営者であり、アートで島を再生させた人物でもある。どちらか一方だけなら、ほかにも名前の挙がる経営者はいる。両方を同じ熱量で、しかも数十年単位で続けてきた点に、この人物の「異才」がある。

進研ゼミを始めたのは父・福武 哲彦であり、本ページでもその事実をはっきり書く。そのうえで、会員数を全国規模に伸ばし、幼児向け講座や妊娠・育児誌へと事業の対象を「人の一生」に広げ、社名そのものを「よく生きる」という理念に置き換えたのは、2代目の福武である。

本ページは、ベネッセの会社案内と社史、ベネッセアートサイト直島と福武財団の公式資料、国際交流基金の公表資料、本人の講演資料と共著書を根拠に、福武 總一郎という人物の輪郭を、事業と文化の両面から記録する。

略歴

  1. 1945年岡山県に生まれる。
  2. 1955年父・福武 哲彦が岡山で株式会社福武書店を創立。中学生向けの図書と生徒手帳の発行から事業を始める。
  3. 1969年早稲田大学理工学部を卒業し、日製産業に入社。同年1月、福武書店が高校生向けの通信教育講座「通信教育セミナ」を開講する。
  4. 1973年福武書店に入社。同年4月、通信教育講座の名称が「進研ゼミ」となる。翌1974年に東京支社長。
  5. 1986年父の急逝を受け、福武書店の代表取締役社長に就任。
  6. 1987年進研ゼミの総会員数が100万人を突破。
  7. 1988年進研ゼミ「幼児講座」(現在の「こどもちゃれんじ」)を開講。
  8. 1989年直島南部に「直島国際キャンプ場」が開設され、島でアートを展示する取り組みの起点となる。
  9. 1990年フィロソフィ・ブランド「Benesse」を発表。
  10. 1992年直島に「ベネッセハウス」が開館。
  11. 1993年進研ゼミの総会員数が266万人に。妊娠・出産情報誌「たまごクラブ」と育児情報誌「ひよこクラブ」を創刊し、語学教育のベルリッツを子会社化。
  12. 1995年商号を株式会社ベネッセコーポレーションに変更し、株式を上場。
  13. 1998年直島の古い家屋を作品化する「家プロジェクト」が始まる。
  14. 2003年社長職を後進に譲り、代表取締役会長兼CEOに。
  15. 2004年個人資産を拠出して「直島福武美術館財団」を設立。同年7月、直島に地中美術館が開館。
  16. 2009年ベネッセが持株会社体制に移行し、株式会社ベネッセホールディングスとなる。同年から「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の総合プロデューサーを務める。
  17. 2010年香川県とともに「瀬戸内国際芸術祭」を立ち上げ、総合プロデューサーに。同年、豊島美術館と李禹煥美術館が開館。
  18. 2012年公益財団法人福武財団が設立され、関連する3つの財団が統合される。
  19. 2014年7月ベネッセコーポレーションが、通信教育サービスなどの顧客情報が外部に漏えいしたことを公表。
  20. 2014年代表取締役会長兼CEOを退き、最高顧問に就任。
  21. 2016年10月公益財団法人福武財団の名誉理事長に就任。
  22. 2024年ベネッセホールディングスが東証プライム市場から上場廃止となる。
  23. 2026年3月瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサーを退任。2025年までの6回の開催を率いた。
  24. 2026年令和8年度 国際交流基金賞の受賞者に決定。

関連組織

株式会社ベネッセホールディングス

創立:1955年(株式会社福武書店)/本社:岡山県岡山市

福武 總一郎の父・福武 哲彦が創立した福武書店を前身とする教育・生活関連企業グループ。高校生向け通信教育から始まった「進研ゼミ」、幼児向けの「こどもちゃれんじ」、介護・保育事業などを展開する。社名の「Benesse」は、ラテン語の bene(良い、正しい)と esse(生きる)を組み合わせた造語で、「よく生きる」を意味する。福武は1986年から社長、のちに会長兼CEOとして長く経営を率い、現在はグループの名誉顧問。

公益財団法人 福武財団

前身設立:2004年(直島福武美術館財団)/公益財団法人としての設立:2012年

福武が2004年に個人資産を拠出して設立した直島福武美術館財団を前身とし、2012年に関連する3つの財団を統合して発足した公益財団法人。直島などでの美術館運営とアート活動、文化・芸術による地域振興への助成、国際芸術祭の推進を担う。理念は「文化、芸術によって、活力にあふれた、個性豊かな地域社会の発展に貢献する」。福武は2016年10月から名誉理事長。

ベネッセアートサイト直島

名称導入:2004年/活動地域:香川県 直島・豊島、岡山県 犬島

ベネッセと福武財団が瀬戸内海の島々で展開するアート活動の総称。1992年のベネッセハウス開館に始まり、家プロジェクト、地中美術館、犬島精錬所美術館、豊島美術館などを、島の自然や暮らしと一体のものとしてつくってきた。福武の講演資料によれば、1990年に年間約1万人だった直島への来訪者は、現在は約80万人に達している。

瀬戸内国際芸術祭

第1回:2010年/総合プロデューサー在任:2010年〜2026年3月

直島での取り組みを瀬戸内の離島と高松港周辺に広げるかたちで、2010年に香川県とともに立ち上げた国際芸術祭。福武は総合プロデューサーとして、2025年までの6回の開催を率いた。過疎と高齢化が進む離島地域をアートで活性化する取り組みとして、海外からも評価を受けている。

代表的な著書・提唱概念

提唱概念

経済は文化の僕である

出典:ベネッセアートサイト直島 プレスキット(2024年3月)/福武 總一郎「現代アートによる地域再生」(2026年3月9日)

福武は、経済活動はそれ自体が目的ではなく、文化をよりよいものにするために仕えるものだと位置づける。この考え方は、福武財団がベネッセの大株主となり、その配当をアート活動の資金とする仕組みとして形にされてきたと、財務省の広報誌『ファイナンス』(2022年10月号)で紹介されている。2026年の国際交流基金賞の受賞記念講演では、直島での経験から得た気づきとして「公益資本主義」を語るとしている。

在るものを活かし、無いものを創る

出典:ベネッセアートサイト直島 プレスキット(2024年3月)/福武 總一郎「現代アートによる地域再生」(2026年3月9日)

直島・豊島・犬島の取り組みは、島の古い家屋や銅の製錬所跡、棚田といった「すでに在るもの」を壊さずに作品や美術館へと転じ、島に「無かったもの」を加えていく手法で進められてきた。福武の講演資料には、「自然こそが人間にとって最高の教師」という言葉も記されている。

主要著書

直島から瀬戸内国際芸術祭へ 美術が地域を変えた

福武 總一郎・北川 フラム 共著/現代企画室/2016年10月/ISBN 978-4-7738-1616-7

瀬戸内国際芸術祭のプロデューサーとディレクターによる初めての共著。直島から始まった「アートによる地域づくり」の歩みと考え方をまとめた一冊で、2026年3月には台湾で第2版の翻訳書も刊行された。

直島 瀬戸内アートの楽園

福武 總一郎・安藤 忠雄 ほか著/新潮社「とんぼの本」/2011年8月(改訂版)/ISBN 978-4-10-602222-7

直島・豊島・犬島のアートプロジェクト全体を解説し、アーティストや建築家、キュレーターへのインタビューを収めた案内書。

系譜・関連人物

福武 哲彦(ふくたけ てつひこ)

株式会社福武書店 創業者/父

1955年に岡山で福武書店を創立し、1969年に高校生向けの通信教育講座を開講して、のちの進研ゼミの基礎を築いた。1986年に急逝し、息子の福武 總一郎が2代目社長として事業を引き継いだ。

安藤 忠雄(あんどう ただお)

建築家

福武は、都会や過度の近代化に対するはっきりとした抵抗として、単なる箱物ではない理念のある文化の場を直島につくりたいと考え、ベネッセハウスの設計を安藤に依頼したと伝えられる。以後、地中美術館をはじめ直島の主要な施設の多くを安藤が手がけている。人物の詳細は安藤 忠雄のページを参照。

北川 フラム(きたがわ ふらむ)

アートディレクター/瀬戸内国際芸術祭 ディレクター

瀬戸内国際芸術祭で福武とともに、プロデューサーとディレクターの関係で芸術祭をつくってきた人物。2016年には共著『直島から瀬戸内国際芸術祭へ』を刊行した。

公式リンク集

出典・参考資料

  • 株式会社ベネッセコーポレーション「会社案内2026」(沿革)
  • ベネッセアートサイト直島「プレスキット」2024年3月
  • 福武 總一郎「現代アートによる地域再生」2026年3月9日(経済産業省 審議会 配布資料)
  • 独立行政法人国際交流基金「令和8(2026)年度 国際交流基金賞受賞者」「受賞記念イベント」
  • 東京大学「福武總一郎氏による情報学環・福武ホールの寄附について」2005年12月
  • 財務省『ファイナンス』2022年10月号「瀬戸内海今昔〜神話の時代から瀬戸内国際芸術祭2022まで〜(上)」
  • 国土交通省 観光庁 地域観光資源の多言語解説文データベース「ベネッセアートサイト直島」
  • ITmedia エンタープライズ「ベネッセで顧客情報が漏えい」2014年7月9日
  • ザ・社史「ベネッセホールディングス」
  • 福武 總一郎・北川 フラム『直島から瀬戸内国際芸術祭へ 美術が地域を変えた』現代企画室、2016年10月
  • 福武 總一郎・安藤 忠雄ほか『直島 瀬戸内アートの楽園』新潮社、2011年8月

この記事を書いた人

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